年末の超話題作、発売から3日で130万本以上を売り上げている『ポケットモンスター ソード・シールド(以下ポケモン剣盾)』は正に”モンスター”タイトルであり、そのゲーム内容も話題性に全く負けておらず、とても面白いものだった。
イギリスをモチーフとした”ガラル地方”はスチームパンク的な建造物や、レンガ造りの家屋などが多く配置されとてもオシャレで、ジム戦はサッカーのスタジアムのような場所で「ダイマックス」という現象により、巨大化したポケモン同士を戦わせるなどのド派手な演出でプレイヤーのワクワク感を煽ってくる。そこに携帯機から家庭用ハードに移行したことによるグラフィックの向上が合わさり、ポケモン史上最高の臨場感を感じながら冒険できるのはとても楽しかった。
20時間。
これは私がこのゲームのクリアに要した時間だ。『ポケモン剣盾』はいままでプレイしたどのポケモンよりも短い冒険となった。
シンプルになり過ぎたストーリー
今作のゲームサイクルは、街でジムリーダーと戦う→次の街に向かう→街でジムリーダーと戦う・・・という事を繰り返すことでストーリーが進んでいくようになっている。これは今までのポケモンと同じだが、今作では街で事件が起きたり、街に行く道中でトラブルに巻き込まれたりする、というストーリー的な寄り道要素が存在していないのでおのずとクリアまでの時間は短くなる。
いや正確には事件は起きるのだが、プレイヤーの兄貴分的なキャラクターが「俺に任せときな!!」という感じで、全部解決してしまうため、いままでのシリーズではプレイヤーが解決していたようなサイドクエストはほぼ無くなっている。
ポケモンの主人公は子供なので、危ない事件を大人が解決する、というのは現実的に言えば全く正しいことだが、悪の組織に乗り込んで一網打尽にするポケモンおなじみの要素が無くなってしまったというのは、昔からのファンから不評を買うかもしれない。
しかし個人的には今作のストーリーの短縮はデメリットだけでもないと思っている。確かにクリアした直後は、あまりにも早い冒険の終幕にショックを受けたが、それまでの冒険で出会った魅力的なキャラクターや何よりポケモン達との出会いはかけがえのないものだ。今作のポケモンたちは家庭用機に移行したことにより、ダイナミックな戦闘モーションやかわいらしい仕草が大幅強化されており、発売から6日が経った今でもツイッターでは自分のポケモンを愛でている人が多数いる。
そんな魅力的なポケモンたちが本領を発揮するのはやはり”戦い”だろう。
通信対戦までのハードルが下がった
ストーリーの短縮による大きなメリットは”通信対戦”に辿り着くまでの時間が短くなったこと。ポケモンを捕まえてコレクションを楽しむ人たちがいる一方で「ポケモン廃人」と呼ばれるガチの対戦勢も多く存在している。彼らからすればクリアしてからがスタート、といっても過言ではないので、ストーリーの短縮濃密化を喜ぶ人もいるかもしれない。
しかしポケモンの対戦には大きな問題がある。それは対戦するためのハードルが非常に高いこと。
実際には本編をクリアしたパーティ、いわゆる「旅パ」でも通信対戦自体は可能なのだが、その場合対戦の土俵にすら立てていない状態で戦っていることと同じで、たまたまタイプが合う相手だったり、プレイングがたまたまかみ合った時だけ勝てるような運ゲーとなってしまう。これを解決するためには「3値」と呼ばれるパラメータを上げる必要があるのだが、これがめちゃくちゃ時間がかかりややこしい。「3値」についてここで書くとわけがわからなくなるうえ、私自身もそこまで深く理解しているわけではないので、ちょっと調べてみてほしい。引くと思う。
世間一般には子供向けで通っているポケモンが通信対戦という”戦場”に一歩足を踏み入れた途端、ポケモン達が動物本来の本能を剥きだしにして、プレイヤーを暗闇の底に叩き落すのである。これがお前らのやり方か!・・・ただ今作はその戦場に立つための装備、ポケモン達の状態を整えるまでのハードルがかなり低くなっている。
あるパラメータを上昇させるのに、今まではクスリを摂取させてから野生のポケモンをある程度狩ることが必要だったが、今作ではお店で買えるクスリだけで最大値まで上昇させることが出来たり、対戦で非常に重要な”性格”が”ミント”というアイテムで変更できたり、ポケモンの個体によって変わるパラメータをクリア後に行える”すごいとっくん”で最大値まで上げられる。つまり今までポケモンをたくさん捕まえたり、卵を産ませたりして量産し、良い数値の個体を”厳選”する必要があった作業を大幅に短縮できるようになっているのだ。
これにより今までネット対戦にたどり着く前に飽きてしまっていた、私のような対戦初心者でも40時間程度の作業を行うことで、今ではネット対戦を楽しめていてこれが非常に楽しいし、新システム「ダイマックス」はいろんなポケモンに新たな戦略をもたらしてくれている。手塩にかけたポケモンを駆使して本気で戦う喜びを初めて感じられた。
憧れの通信対戦まで私を辿り着かせてくれたポケモン剣盾には、大きな感謝の気持ちを送りたい。
とはいえ対戦初心者の私は要領が悪く、クリアから対戦に至るまでに40時間ほどかかっているため、3値の存在すら知らない初心者とっては、ハードルが低いとは言えないだろう。ネットで良く調べるのはいいが調べ過ぎず、こだわり過ぎず、まずは対戦を楽しむ方が強くなるためには効率がいいことを、40時間の作業を終えてから気づいた。私のような間違いをしなければ、もっと早く対戦にたどり着けるので、これからポケモン剣盾で対戦デビューしようとする人には気を付けてもらいたい。
まあ結局本当にガチで強いパーティを複数作りたくなったら、100時間ほどの作業は当たり前になるだろう。怖い。
対戦勢とエンジョイ勢の欲を満たす「ワイルドエリア」
そんな恐ろしい対戦勢にも重宝され、コレクションを楽しみたい健全な魂をお持ちの方も楽しめるであろう『ポケモン剣盾』最大の目玉「ワイルドエリア」は素晴らしい。ここが実質ポケモン剣盾の寄り道要素であり、エンドコンテンツでもある。
「ワイルドエリア」は最近のゲームと比べると、決して広大とは言えないがポケモン史上最大のひとつながりのマップ、わかりやすく言えば「オープンワールド」のようなフィールドで、自然豊かな土地の中をポケモン達が自由に生きている場所だ。時間帯や天候によって出現するポケモンが変わるのはいつものポケモンと同じだが、ここまで広い場所を自由に動き回れるポケモンは今までなかったので、臨場感やそこに生きている感は段違いだ。
初めて訪れる時は、登場するポケモンたちのレベルの高さに驚くだろう。その段階ではゲットできないレベルのポケモン達が容赦なく出現する正にワイルドな環境は、これからの冒険への期待感を高めるのに十分だ。
ゲンガーや、イーブイの進化系各種、600族と呼ばれる強力なポケモンがその辺をうろうろしており、ポケモントレーナーにとってはパラダイスと言えるような場所なので、コレクションをしたい方も強いポケモンが欲しい方も両方の欲を満たすことが出来るようになっている。
しかもワイルドエリアには”レイドバトル”という要素がある。これは今作のバトルシステム面での目玉である「ダイマックス」により巨大化したポケモンを、プレイヤー4人で協力して倒すモードで、クリアすると強力なパラメータのポケモンが手に入りやすいため、対戦勢もカジュアルに楽しんでいる人も楽しめるだろう。
ストーリーの長さを犠牲に他の要素を大幅に強化している
ポケモン剣盾はストーリーの長さを犠牲にすることで、その他の要素をさらに深くそして手軽に楽しめるように進化しようとしている。まだまだネット対戦のハードルは低いとは言えないが、今作で対戦デビューに成功したという人が多く表れそうなところまではハードルが下がってきてくれているので、頑張ればランクバトルというガチ対戦を楽しむことも夢ではない。
ストーリーも短いとはいえ、キャラクター達は本当に魅力的で十分愛着を持つことが出来た。ストーリーしか遊ばないプレイスタイルの人にとっては、あまりにも短い冒険になってしまうだろうが…
しかしワイルドエリアの存在もあるので、ストーリーの短さだけでこのゲームの評価を決めるのは良いことではないだろう。実際私のプレイ時間はクリアの時点で20時間、そして現在80時間に到達しようとしている。
頻繁にゲームを買えない幼い子どもを失望させるようなボリュームの少ないものではなく、安心して人に勧められる素晴らしいゲームになっていた。
私も、この記事を書き終えたらまたネット対戦という戦場に潜り込むとしよう。
スコア 90/100
GOOD
- 家庭用機に移行したことによるグラフィックの向上
- あらゆるファンの欲を満たすワイルドエリア
- パーフェクトなポケモン達のビジュアル
- 魅力的なキャラクター
- 深淵な読み合いが魅力の対戦
- 対戦にたどり着くまでのハードルが下がった
BAD
- あまりにもシンプルで短いストーリー
- 進化、孵化などの細かな演出がスキップできない
- 対戦にたどり着くまでのハードルは、いまだ低いとは言えない